チェロ奏者カザルスの本 その1

カタルーニャ生まれの世界的チェロ奏者パブロ・カザルス(カタラン語では、パウ・カザルスPau Casals/ 1876年12月29日 – 1973年10月22日)について書かれた本『カザルスの心』と『パブロ・カザルス 喜びと悲しみ』を読みました。

カザルスの心600
岩波書店

『カザルスの心』は岩波ブックレットから出ている54ページほどの薄い冊子。とても読みやすく読みはじめたら止まりませんでした。

『カザルスの心』は、1971年ニューヨークの国連総会会議場での「国連デー」記念コンサートで、カザルスがカタルーニャの民謡『鳥の歌』を演奏をしたくだりから始まります。

「もう14年も公開演奏をしてませんが」とことわり、運ばれてきたチェロを手に取り、カザルスは各国の代表とその家族に向かって「私の故郷のカタロニアでは、鳥たちはピース、ピース、ピース!と鳴きながら空を飛んでいるのです」と述べたそうです。
スペイン市民戦争という悲しい内紛を下敷きにつくられたフランコ独裁政権の一連の暴挙に反対し祖国を離れ、以後30数年もの間、戦争と抑圧に抵抗し続けたパブロ・カザルスは、このとき94歳。

『カザルスの心』は、祖国カタルーニャの自然と音楽をこよなく愛したカザルスの偉業と、その哲学についてとてもわかりやすく描かれているだけではなく、カザルスの鋼鉄のような意思にも触れています。電車の中で読んでいたのですが、不覚にも、ハンカチをとりだすほどの落涙。

著者はチェロ奏者でもあった井上頼豊(よりとよ)。音楽家だからこそすくいあげられる繊細な描写も印象的で、特筆すべきは、1961年にカザルスが来日した際のこと。降臨したチェロの神様の厚意は感動ものです。

また、1956年、哲学者であり評論家である矢内原伊作に、カザルスは自身の行動についてこう語ったそうです。
「音楽家には道徳的責任がある。芸術家は政治に仕えるのではなく、人間性の尊厳に仕えるのだから」。
音楽への広く深い愛情が、生涯、厳しい姿勢を貫き通す原動力になったのかもしれませんね。

大好きな『無伴奏チェロ組曲』も、そんなストーリーを知ってから聴いてみるとまた違った音色が聴こえてきそうです。

関連記事