チェロ奏者カザルスの本 その2

スペイン・カタルーニャ生まれの世界的チェロ奏者パブロ・カザルス(カタラン語では、パウ・カザルスPau Casals/ 1876年12月29日 – 1973年10月22日)の回想録『パブロ・カザルス 喜びと悲しみ』を読みました。

カザルス喜びと悲しみ表紙600

岩波ブックレットの『カザルスの心』を読んで感動し、本棚の奥に眠っていた『パブロ・カザルス 喜びと悲しみ』を引っ張り出しての読書の秋です。

カザルスの回想と評論で編み上げたという、『パブロ・カザルス 喜びと悲しみ』には、幼少期からはじまり、思春期、皇室からの援助を受けての学生時代、(取材時の)93歳の長きに渡って、魅力ある有名無名の人々との興味深い交流が語られています。それぞれの交流を通して浮かび上がるのは、やんちゃで活気あふれるパウ・カザルスの姿です。

心を打たれたのは、思春期のカザルスが「人生の最初の深刻な精神的危機を経験した」こと。貧しかったゆえに、息子パウの進路は両親の不和を呼び、それを口火にカザルスは「人生の意義について」模索します。すでに音楽的才能を評価されながらも苦悩するのです。カザルスのような神童でも、生きる意味について悩んだとは驚きでした。

カザルスはバルセロナでひとり悩み、十代にして、「音楽はそれ自体より大きなものの一部、ヒューマニティーの一部でなければならない」という、生涯変わることのない考えにたどりついたといいます。

カザルスが学生生活を送ったバルセロナの19世紀末は、ガウディや、カタルーニャ音楽堂を設計したドメネク・イ・モンタネーが活躍した時代です。カフェで演奏するカザルスの評判を聞きつけ、大ピアニストのイサーク・アルベニスが訪ねてくる一節、また、多彩な文化人との交流とともに語られる19世紀末のパリの華やぎ、どれも心に残ります。

20世紀の初頭、イザイエ、ティボー、クライスラー、ピエール・モントウ、コルトー、バウア、エネスコといった音楽家たちと定期的に集い、日常のすべてを忘れて演奏の楽しさを堪能するくだりも、読んでいて心躍ります。
「私たちは弾いた、二重奏、四重奏、室内楽、やりたいものはなんでも」。美しい音やリズムが溶け合い歓喜がスイングする様子が目に浮かび、わたしは音楽の楽しみとはわけあうことだと確信しました。

やがて1900年を前後して、日増しに悪くなる国の情勢、恐ろしい市民戦争や悲惨な第二次世界大戦へとなだれ込むバルセロナやヨーロッパの鼓動がヴィヴィッドに浮かび上がります。本書の魅力は、カザルスを取り巻く人々やその交流を通して、ヨーロッパの街角の歴史をたどる愉しみにもありそうです。

続きはまた明日。

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