『朝食、昼食、そして夕食』その2

『朝食、昼食、そして夕食』を観ました!

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さまざまな食卓の風景に彩られた人生模様は、しみじみとして想像以上によかったです。
原題が『18 comidas』つまり「18回の食事」ですし、舞台が海の幸豊富なガリシアですから、料理にフォーカスしたものを想像していたのですが、「料理」というよりも「人」。日々の暮らしに寄り添う、いくつもの食卓、いくつもの人生の断片を映し出したものでした。観ているうちに食事を忘れ、いつだって心を満たし煩わせる、それぞれの人間模様に引き込まれてしまいます。。。

映画製作は、即興という冒険的な手法を加えた90時間にも及ぶ素材を、監督自ら半年かけて編集したそうです。
サンティアゴ・デ・コンポステラの街を舞台に同時進行するさまざまな物語は、おおげさなところは何もなくて、誰もが感じるような、選ばなかった寂しさや、踏み出せなかった後悔など、過去と現在と、見えない未来の心の葛藤までもにじませています。
表現力も技法も、そして主張する力加減までもしっくりくる、久しぶりにじんわりとハートに染み込むスペイン映画。とても新鮮でした。

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写真提供/Action Inc.

どんなにおいしい食事が差し出されようとも、どんなにステキなテーブルが用意されようとも、メインは「人」であることを、そっと語りかけるようなゆるぎない視点がこの映画にはあって、わたしにとってはそれが「幸せな驚き」(EL PAIS紙)。

中でも心に残るのは、街角に立ち日銭を稼ぐミュージシャンのルイス・トサルと、孤独を感じる主婦ソル役のエスペランサ・ペドレーニョの会話。突然昼食の誘いを受け、ミュージシャンは戸惑いとともにその理由をたずねます。本音を漏らすソル。そして翻弄されるにも関わらず、男は「そこまで」言わせてしまったことを詫びるのです。その優しさは、ガリシア人、スペイン人特有のもの? なあんていうロマンがまた広がります。
またゲイであることを隠そうとする弟と、その兄が囲む昼食のシーンも最高でした。笑いさえ醸し出す「真剣味」もまたひとつの愛情なのでしょう。

さて、監督のホルヘ・コイラ。
彼は、ガリシア州の小さな町で生まれ、高校時代に俳優ルイス・トサルと出会い、ふたりでビデオクリップなどの制作を始めているんですね。89年から短編を作りながら10年もの間、鳴かず飛ばず。2000年にテレビドキュメンタリーの監督になったそうです。そして味わい深い脚本はアラセリ・ゴンダ(女性)。監督ホルヘ・コイラは映画発表の翌年の2011年にアラセリと結婚。その後もふたりはサンティアゴ・デ・コンポステラを拠点としています。

そんなこんなで、ホルヘ・コイラのウィキペディアを覗いたら、あれ?これってもしかしたら、gallego?? カステリャーノとは明らかに違う、ガリシア語で記載されているんじゃないでしょうか? 昨日のカタルーニャ語に続き、ガリシア語も健在!? 多彩な文化が混在するスペイン。その包容力とおおらかさに恋したわたしとしては、地方色の主張に、また胸キュンな気分になりました。

さて、数々の食事の風景に導かれた末、映画に心を奪われたわたし。1時間半の着席で固まった足腰を伸ばし、劇場を出ようとすると、出口には係員。「ありがとうございました」と頭を下げられると、とっさにこちらも頭をペコリ。あやうく「ごちそうさまでした」といいそうになりました。「ごち」までは聴こえたかも? すっかりレストランを後にする気分になっていたのです。
近頃、日常的に混乱しがちな頭に一抹の不安を覚えるものの、「ごはん映画」もここまでくれば成功ですよね?

*東京で『朝食、昼食、そして夕食』の再上映が決定〜!

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